唇がカサカサする、皮がむける、ひび割れて痛い。多くの人が経験する、こうした唇のトラブル。これらは、単なる「唇の荒れ」なのでしょうか、それとも、治療が必要な「口唇炎」なのでしょうか。この二つは、症状が似ているため混同されがちですが、その原因や対処法には違いがあります。その違いを正しく理解することが、適切なケアへの第一歩となります。まず、「唇の荒れ」は、主に乾燥や、物理的な刺激によって引き起こされる、一時的なコンディションの低下を指します。唇の皮膚は、顔の他の部分に比べて角質層が非常に薄く、皮脂腺や汗腺がないため、自ら潤いを保つバリア機能が極めて弱いという特徴があります。そのため、空気が乾燥する冬場や、紫外線の強い夏場、あるいは、唇を舐める癖などによって、簡単に水分が奪われ、カサつきや皮むけが起きてしまうのです。この段階であれば、リップクリームなどで、こまめに保湿を行い、刺激を避けることで、比較的短期間で改善することがほとんどです。一方、「口唇炎」は、こうした単純な乾燥や刺激だけでなく、より複雑な要因が絡み合い、唇に「炎症」が起きている、医学的な病態を指します。症状としては、唇全体の赤み、腫れ、亀裂、そして、時には小さな水ぶくれや、ただれ(びらん)などを伴います。ヒリヒリとした痛みや、かゆみを感じることも多く、セルフケアだけでは、なかなか改善しなかったり、良くなったり悪くなったりを繰り返したりするのが特徴です。口唇炎の原因は、アレルギー反応(化粧品、食べ物、金属など)、細菌やカビ(カンジダ菌)の感染、ビタミン不足、アトピー性皮膚炎の一部、そして、ストレスや疲労による免疫力の低下など、多岐にわたります。見極めるポイントは、「症状の期間」と「炎症の強さ」です。もし、あなたの唇のトラブルが、2週間以上たっても改善しない、あるいは、ただのカサつきだけでなく、強い赤みや腫れ、水ぶくれなどを伴う場合は、単なる唇の荒れではなく、口唇炎の可能性が高いと考えられます。自己判断で市販薬を使い続けるのではなく、一度、皮膚科を受診し、専門家による正しい診断と、適切な治療を受けることを、強くお勧めします。