大人の歯がぐらぐらする最大の原因として挙げられるのが歯周病です。歯周病は、歯垢(プラーク)の中の細菌によって歯肉に炎症が起こり、進行すると歯を支える歯槽骨が溶けてしまう病気です。骨の支えを失った歯は徐々に動揺し始め、最終的には抜歯に至ることも少なくありません。では、歯周病によってぐらぐらになった歯は、どのような場合に抜歯と判断されるのでしょうか。歯科医師は、いくつかの要素を総合的に評価して抜歯の必要性を判断します。まず重要なのは、歯の動揺度です。指や器具で歯を動かした際に、どの程度揺れるかを客観的に評価します。わずかな揺れから、前後左右だけでなく上下にも動くような著しい揺れまで、段階があります。動揺が大きく、通常の咀嚼機能に支障をきたすような場合は、抜歯が検討される可能性が高まります。次に、歯周ポケットの深さです。歯周ポケットは、歯と歯肉の間の溝のことで、健康な場合は2〜3ミリ程度ですが、歯周病が進行すると深くなります。ポケットが深くなるほど、細菌が繁殖しやすく、清掃も困難になり、骨の破壊も進んでいることを示唆します。レントゲン写真による歯槽骨の吸収度も重要な判断材料です。歯根の周りの骨がどの程度失われているかを確認し、歯根の長さに対して残っている骨の量が極端に少ない場合は、歯を支える力がほとんどないと判断されます。また、歯根の分岐部にまで病変が及んでいるか(根分岐部病変)も考慮されます。奥歯など複数の根を持つ歯の場合、根の分岐している部分まで骨の破壊が進むと、治療が非常に困難になり、予後が悪くなることが多いです。さらに、患者さんの口腔清掃状態や治療への協力度、全身疾患の有無、そして何よりも患者さん自身の希望や生活の質(QOL)なども考慮されます。例えば、重度の歯周病で予後不良と判断される歯であっても、患者さんが強く保存を希望し、徹底した口腔ケアと定期的なメンテナンスを行えるのであれば、一時的に保存を試みることもあります。しかし、その歯を残すことで周囲の健康な歯に悪影響を及ぼす可能性がある場合や、感染源となり全身の健康を害するリスクがある場合は、抜歯が最善の選択となることもあります。歯科医師はこれらの情報を総合し、患者さんと十分に話し合った上で、最終的な治療方針を決定します。
歯周病とぐらぐら歯の抜歯判断