アトピー性皮膚炎の持病がある方にとって、顔の中でも、特に「唇」の周りの肌荒れは、非常によく見られる、悩ましい症状の一つです。アトピー性皮膚炎に伴って現れる口唇炎は、「アトピー性口唇炎」と呼ばれ、一般的な口唇炎とは、少し異なる特徴と、ケアのポイントがあります。アトピー性皮膚炎は、皮膚の「バリア機能」が、遺伝的に低下していることに加え、アレルギーを起こしやすい体質(アトピー素因)が、複雑に絡み合って発症する、慢性の皮膚疾患です。皮膚のバリア機能が弱いと、肌の水分が蒸発しやすく、常に乾燥した状態になります。また、外部からのアレルゲンや、刺激物質が、簡単に皮膚の内部に侵入し、炎症を引き起こしやすくなります。唇の皮膚は、もともと、顔の他の部分よりも、角質層が薄く、皮脂腺もないため、バリア機能が極めて弱い、デリケートなパーツです。アトピー性皮膚炎の人が、口唇炎を起こしやすいのは、この「もともと弱い」部分が、さらに「輪をかけて弱い」状態になっているため、と言えます。アトピー性口唇炎の症状は、唇全体の乾燥や、皮むけ、ひび割れといった、一般的な口唇炎の症状に加えて、唇の輪郭、つまり、唇と皮膚の境目が、くっきりと赤くなったり、色素沈着で、くすんだりするのが特徴です。また、口角(唇の端)が切れやすい、口角炎を併発することも、よくあります。治療の基本は、皮膚科で処方される、ステロイド外用薬や、免疫抑制外用薬(タクロリムス軟膏など)で、まずは、しっかりと炎症を抑えることです。自己判断で、市販薬を使ったり、治療を中断したりすると、症状をこじらせてしまうため、必ず、医師の指示に従いましょう。そして、薬による治療と、同じくらい重要なのが、日々の「徹底した保湿ケア」です。ワセリンや、セラミド配合の、低刺激な保湿剤を、一日に何度も、こまめに塗ることで、低下したバリア機能を補い、唇を、乾燥や刺激から守ることが、症状の安定と、再発予防の、最大の鍵となります。アトピー性口唇炎は、体質と向き合い、根気強く、正しいケアを続けることが、何よりも大切なのです。