「歯を抜くのは痛い」というイメージは、多くの方が持っているのではないでしょうか。特に、ぐらぐらしているとはいえ、大人の歯を抜くとなると、その痛みがどの程度なのか心配になるのは当然です。しかし、現代の歯科医療では、できる限り痛みを軽減するための様々な工夫がなされています。まず、抜歯処置そのものは、局所麻酔をしっかりと効かせてから行われるため、術中に激しい痛みを感じることはほとんどありません。麻酔注射のチクッとした痛みも、表面麻酔(歯茎に塗る麻酔薬)を使用したり、極細の注射針を用いたり、ゆっくりと麻酔液を注入したりすることで、最小限に抑える努力がされています。麻酔が十分に効いていることを確認してから抜歯を開始するので、患者さんは押される感覚や振動は感じても、鋭い痛みを感じることは通常ありません。もし処置中に痛みを感じるようなことがあれば、遠慮なく歯科医師に伝えれば、麻酔を追加するなどの対応をしてもらえます。問題は、抜歯後に麻酔が切れてからの痛みです。これは「術後疼痛(じゅつごとうつう)」と呼ばれ、個人差はありますが、ある程度の痛みは避けられません。抜歯は外科的な処置であり、歯茎や骨に少なからず侵襲が加わるため、炎症反応として痛みが生じるのです。痛みの程度は、抜歯した歯の種類(前歯か奥歯か)、抜歯の難易度(簡単に抜けたか、骨を削る必要があったかなど)、患者さんの体質などによって異なります。一般的に、下の親知らずの抜歯など、難しい抜歯ほど術後の痛みが強く出やすい傾向があります。しかし、この術後疼痛に対しても、歯科医院では通常、痛み止めの薬(鎮痛剤)が処方されます。指示通りに服用することで、多くの場合、痛みはコントロール可能です。痛みのピークは、抜歯当日から翌日くらいまでで、その後は徐々に和らいでいくのが一般的です。数日経っても痛みが全く引かない、むしろ強くなる、あるいは腫れや発熱がひどくなるような場合は、ドライソケットなどの合併症の可能性も考えられるため、速やかに歯科医院に連絡する必要があります。過度に痛みを恐れる必要はありませんが、不安な点があれば事前に歯科医師によく相談し、納得した上で治療を受けることが大切です。