こんにちは、歯科医師の佐藤(仮名)です。患者さんにとって「歯の神経を抜く」という宣告は、非常に重く受け止められることが多いと感じています。私たち歯科医師も、できる限り歯の神経(歯髄)を温存したいと考えていますが、やむを得ず抜髄を選択せざるを得ない状況があります。今回は、私たちがどのような基準で抜髄の判断を下しているのか、その一端をお話ししたいと思います。まず、最も重要な判断材料となるのが、歯髄の状態、つまり「歯髄が生きているか(生活歯髄か)、死んでいるか(失活歯髄か)」、そして「炎症の程度はどうか」ということです。これを評価するために、問診(自覚症状の確認)、視診、打診(歯を軽く叩いて響き方を見る)、温度診(冷たいものや温かいものへの反応を見る)、電気歯髄診断(微弱な電流を流して反応を見る)、そしてレントゲン検査など、様々な検査を行います。例えば、患者さんが「何もしなくてもズキズキ痛む」「夜も眠れないほどの激痛がある」といった自発痛を訴えている場合、歯髄に強い炎症(急性化膿性歯髄炎など)が起きている可能性が高く、多くの場合、抜髄が必要となります。また、冷たいものだけでなく温かいものでも強くしみたり、温かいものを口に含むと逆に痛みが強くなったりする場合も、歯髄炎が進行しているサインです。レントゲン検査では、虫歯が歯髄腔にまで達しているか、根の先に膿の袋(根尖病巣)ができていないかなどを確認します。根尖病巣が確認された場合は、すでに歯髄が死んでしまっている(歯髄壊死・壊疽)ことが多く、この場合も抜髄、正確には感染根管治療という処置が必要になります。ただし、これらの検査結果だけで即断するわけではありません。例えば、虫歯が深くても、自覚症状がほとんどなく、温度診などへの反応が正常範囲内であれば、慎重に虫歯だけを取り除き、MTAセメントなどで歯髄を保護する治療(歯髄保存療法)を試みることもあります。一方で、見た目には小さな虫歯でも、レントゲンで確認すると歯髄に非常に近接していたり、歯の内部で大きく広がっていたりすることもあります。このような場合、虫歯を取り除く過程で歯髄が露出してしまう可能性が高く、その際の歯髄の状態(出血の程度や色など)によっては、抜髄を選択せざるを得ないこともあります。
歯科医が語る!神経を抜く治療の判断基準