多くの歯科医院で、定期検診や治療の際に「デンタルフロスを使っていますか?」と尋ねられた経験がある方は少なくないでしょう。なぜ歯科医はこれほどまでにデンタルフロスの使用を推奨するのでしょうか。その背景には、歯ブラシだけでは決して届かない領域の清掃が、口腔全体の健康を維持する上で極めて重要であるという事実があります。歯と歯の間や、歯と歯茎の境目には、目に見えないプラーク(細菌の塊)が日々蓄積しています。このプラークこそが、虫歯や歯周病といった二大歯科疾患の主な原因となるのです。歯ブラシの毛先は、どんなに工夫された形状であっても、密集した歯間や歯周ポケットの奥深くまで入り込むことは困難です。しかし、デンタルフロスであれば、その細い繊維を滑り込ませることで、歯ブラシが届かない部分のプラークを物理的に掻き出すことが可能になります。歯科医は、日々の診療で多くの患者さんの口腔内を見ており、デンタルフロスを使用している人とそうでない人の歯茎の状態やプラークの付着具合の違いを目の当たりにしています。そのため、単に「汚れが落ちるから」という理由だけでなく、将来的な歯の喪失リスクを低減し、長期的な口腔健康を守るという観点から、デンタルフロスの日常的な使用を強く推奨しているのです。歯科医がおすすめするのは、その効果を確信しているからに他なりません。デンタルフロスが除去するプラークは、単なる食べカスとは異なります。プラークは細菌の集合体であり、これが糖を分解して酸を産生することで歯の表面を溶かし、虫歯を引き起こします。また、歯周ポケット内で増殖すると、歯茎に炎症を引き起こし、進行すると歯を支える骨を溶かしてしまう歯周病へと繋がります。歯周病は自覚症状が乏しいまま進行することが多く、気づいた時には手遅れになっているケースも少なくありません。歯科医がデンタルフロスをおすすめするのは、これらの深刻な疾患を未然に防ぐための最も効果的な手段の一つだと認識しているからです。実際に、デンタルフロスを習慣的に使用することで、歯間部の虫歯の発生率が大幅に低下するという研究報告も多数存在します。さらに、歯周病の予防や進行抑制においても、デンタルフロスによる歯間清掃は不可欠とされています。
歯科医がデンタルフロスを強く勧める本当の理由